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佐藤 多佳子 「一瞬の風になれ」

赤いタータンの走路が、午後の日差しに光って見えた。俺の走る一本のレーンだけが、そこだけ俺には光って見えた。まっすぐに、まぶしく、胸に刺さるほど美しく。すべてを忘れた。あの光る一本の赤い走路しか見えない。佐藤多佳子「一瞬の風になれ  3」講談社文庫P389


一瞬の風になれ、のなかで好きな場面のひとつです。

主人公の神谷新ニが南関東大会の100メートルの決勝を走る場面。

フライングをした選手がいて張り詰めた緊張が一旦切れ、また精神を集中させる主人公が、自分の行く道がまっすぐ見えて自分のレースを戦うところ。

読んでいるだけの私の緊張も高まり、わざとフライングした選手にムカつきつつ、そんな中思い切ったスタートを切る新ニの幼馴染・蓮の姿に胸のすく思いを感じたり。

この佐藤多佳子さんの「一瞬の風になれ」は、第一部イチニツイテ  第二部 ヨウイ  第三部  ドンからなる小説で、第4回本屋大賞も受賞しています。

私は「サマータイム」というヤングアダルトものを読んで以来佐藤多佳子さんのファンなのですが、そんなに派手なところはないので「一瞬の風になれ」がここまで注目を浴びるなんて!とびっくりした記憶があります。

それもそのはず。

読めばわかりますが、私のなかで「タッチ」「スラムダンク」などと同じ位置づけにあるくらい、スポーツ青春ものとして面白い!

主人公の神谷新ニはユース日本代表に名前が上がるくらい天才と呼ばれる兄に憧れ、中学時代サッカー部で過ごすが、体つき、運動神経もよく、サッカーも大好きで練習好きにも関わらず、なかなか上達しない。

高校入学とともにサッカーをやめ、ひょんなことから元陸上部の蓮と陸上部に入部し、どんどん才覚をあらわしてゆく。

幼馴染の蓮は短距離を走るために生まれてきたかのような身体能力があり、彼に追いつこうとどんどん練習していく新ニの才能のひとつは、練習大好き人間だったこと!

最初はうまく走れない。蓮に比べて無駄な動きが多い。

ひとつひとつの欠点を埋める練習をつみ、高3の関東大会予選を前にして蓮に「お前に負けたくない」とまで言わせるようになる、、、!

クライマックスは、冒頭にある南関東大会の100メートル決勝と、そのあとに続く4継リレーです。

100メートル×4人でバトンを繋ぐリレー、新ニと蓮以外にショートスプリントの後輩2人がはいって、4人でインターハイをめざすために、いろんなことがあっていろんな気持ちを乗り越えて、4人は決勝のスタートにつく。

そこからは涙涙、です、私は。

所属するスカイブルーのチームカラーのハチマキを巻いて円陣を組む四人、同じ色の旗がはためく空。

経験のない私の心の中にも赤いトラックが目に浮かぶ。彼の、光る道、赤い走路が。

こんなふうに情景が鮮やかに浮かぶ小説に出会えて嬉しい。